仕事の後は銀ブラ

仕事は新橋である。仕事が終われば運動とかこつけて銀座を徘徊している。家に帰れば晩飯が待っているし、何か腹に入れるとそれこそ運動どころではないから、何をするというわけでもなく、歩いてから有楽町か東京から帰る。だいたい19時前なので、ギャラリーとかも店じまい寸前だから覗くわけでもない。

この時間帯は銀座には和服を着た女性が大量発生している。出勤中の方々らしい。残念だが彼女たちの染めの和服や Mars Attacks! に出てくるようなアップの髪は私の趣味ではない。そういう店にもそもそも行かない。趣味はともかく、路上で観察させてもらっている。さすがに着付けはきっちりしているようだ。ただ和服にシャネルのバッグとかが私には良くわからない。

さて、私の妻はこの所、毎日和服で暮らしている。もう一年位になるだろうか。はじめはまた面白いことはじめたと思ったが、一年もやると自然になってしまった。ほとんどが二束三文の古着だったり、頂き物なので、お金は全くといっていいほど掛かっていない。のだけれども、一時期私の家の近所では私がエラク出世したらしいと噂になっていた。実のところ妻は洋服時代に比べれば衣装代は逆に減っているのである。

というわけで、たまに夕刻に妻と銀座で待ち合わせて歩いていると、もうこれは変な同伴出勤にしか見えない。ただ、幸いにして妻は(織)絣が趣味である。わかる人が見れば、銀座のママさんではないことがすぐわかる。さらに横のスーツも着てない鬚の大男と組み合わせるとちょっと形容しがたい変な人たちに見えることだろう。

染も織も日本の布は良いものは工芸的には恐るべきものがあるが、私も織のほうが好きだ。おそらくプログラミングっぽい原理で模様を紡ぎだすのが性に合っているらしい。銀座は値段はともかく着物の店が多いので独りでも歩きながら見物している。大島とか琉球絣など見ていると全く飽きない。妻の同伴としてなら呉服屋に入りもするが、買いもしないのに大男が女物の反物や和服を「ホーこれは塩澤(紬)ですか」とか言いながらベタベタ触っているのである。呉服屋はご理解のある旦那さんですねぇなどと、大蔵省に見えないこともないから、まず手放しに褒めてくれるが、正直なところ、商売の邪魔だろう。結局買わないし。

実は私も着物は一着持っているので、着物で出勤してみようかと思っている。夏に一度やったが、オフィスでは一瞬受けたものの、同時に一瞬で受け入れられてしまった。さすがニューヨークを本拠にする外資系、懐が深いというべきか、流されたというべきか。着物でもコーディングには全く支障がない。そもそも客相手の仕事ではないが、もし誰かに会うとしても、夏なぞは Tシャツに短パンなんて服装の会社なので、和装のほうがよほどフォーマルである。その着物は綿の一重なので今は寒くて着れない。袷を作って恒常的に着物で通勤しようかしらん。というわけで、いつか新橋や銀座で和服を着たプログラマーを見たら、私である。